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国を相手取った裁判の特殊性
弁護士をある程度続けていると、被告「国」として裁判を提起する場面も出てきます(「被告国 代表者法務大臣〇〇」という被告相手の訴訟です)。
この裁判は通常、法務省訟務局付の検察官や国が選任した弁護士、さらには担当の部署の責任者などが出てきて、多い時には関係者10名近くが被告席・傍聴席に座ったり弁論準備室に入ってきて裁判を進めます。
この人数の多さはそれだけでも相当なプレッシャーですが、それ以上にこの種の裁判のプレッシャーは裁判官に重くのしかかります。それは、「変な判決を書いて国を負けさせたら、自分の人事に影響がでるかもしれない」という懸念です。
判決については基本的に公開されますが、特に国側敗訴の判決がでれば世間から注目されることになります。また国側が上訴すれば、上級審で別の裁判官が下級審の判決を審査します。そのため、あまりにも変な判決を書き続けると、裁判官としての能力に疑問符がつけられて今後の勤務に影響が出ることになってしまいます。あまり強く出世は意識していない方でも、裁判官は10年ごとで再任できるかの判断が行われますし、転勤での配属地の決定にも成績が影響しているものとも思われますので、あまり最高裁の人事局に悪目立ちはしたくないという気持ちは誰でも持っていると思います。そうするとどうしても国側敗訴の判決を書くことは少し考えてしまう場面があると思います(もちろん、きちんとした職業倫理感をもって裁判官を勤められている方もおられますので、すべての方がそうであるとは限りません)。
私が担当した事件でも、詳細はあまり書けないのですが、通常の一般当事者同士の争いなら間違いなくこちら側勝訴の事案でしたが、裁判官はそのまま国敗訴の判決を書きたくないという意向の方で、和解での解決を強く勧め、結局こちらもある程度譲歩した和解をせざるをえない事案がありました。
そのため、国相手に裁判を起こす場合についてはこのような特殊性もありますので、事前に注意して依頼を受けるようにしています。